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4月2日(土)・・・それでも伝える、伝統の技 宮城・石巻の雄勝硯

宮城県石巻市雄勝(おがつ)町の名産で、600年の歴史を誇る「雄勝硯(すずり)」。津波は容赦なく町内の工房や職人の自宅をのみこんだ。絶望の中で、伝統の技を継承しようとする動きが出始めた。

 町内には3人の伝統工芸士がいる。1人は津波に流されて行方がわからず、2人が残った。その1人、杉山澄夫さん(81)は引退を決めた。「年だからね」と本人は言葉少なだが、妻ゑみ子さん(76)が言葉を継いだ。「(津波の前は)まだまだ大丈夫だって言ってたのよ。でも全部流されては続けられないっちゃ」

 澄夫さんが修業を始めたのは14歳のとき。敗戦の廃虚から立ち上がろうとした時代だった。のみをあてる角度まで職人の作業をつぶさに観察し、自宅でまねを繰り返した。結婚すると、背景の模様つけや磨きなどの仕上げはゑみ子さんの仕事となった。

 やがて各地の書道家から注文が入るようになり、伝統工芸士や現代の名工に認定されるまでになった。

 だが、津波はすずりを作る大切な道具や作品まで流し去った。「伝統的工芸品レベルの技術の継承はもう難しいかもしれない」。すずり販売店経営の沢村文雄さんは語る。1970年代まで300人近くいた職人は20人を切っていた。職人も行方がわからない人がおり、高齢化が進む町に津波が追い打ちをかけた。

 「しかし」と生産販売協同組合の千葉隆志事務局長(49)は言う。「屋根材や食器の生産を軌道に乗せれば、すずりの技術も伝承していける」。地元でとれる「雄勝硯」の原石の黒々と重厚感のある特質を生かし、国の支援を仰いで一般家庭で使える製品から生産を再開すれば、希望を見いだせる、という考えだ。
原石の屋根材としての評価は高く、1914年完成のJR東京駅赤れんが駅舎に使われ、現在の復元工事でも採用されている。千葉さんは「この原石を使って数年前から食器加工が始まった。真っ黒な皿だと料理が映えるので東京都内の高級ホテルや欧州からの注文も増えている」と話す。

 すずり作りに意欲を燃やす若手も出てきた。去年から職人見習いになった小木曽誠さん(28)は「実用性も芸術性も兼ねる素材。石なのにこんなものができるの、と驚かれる作品を作りたい」。

 津波が去ったあと、何もかもがなくなった杉山さんの工房跡地から、娘の夫が見つけ出してくれたものがある。夫妻で作り上げた、2本のキュウリが実る図柄のすずりだ。

 「一つでも見つかれば仕事の証しになる。光が差したっちゃ」。すずりを手にした夫に、妻が笑いかけた。(木下こゆる)
by nsmrsts024 | 2011-04-02 19:34 | 朝日新聞・綜合、政治

千年に一度の巨大津波と原発事故による核災害


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