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2016年2月18 日(土):“蜜月”日米首脳会談後にトランプとの駆け引きを誤らない心得

出だしは上々、本番はこれから首脳会談後の日米関係

 日米首脳会談は、日本にとって申し分のない結果になったと言うほかない。自動車や為替など、日本側が警戒していた案件は取り上げられなかった。とりわけ注目された為替と金融政策の関係では、「世界の需要を強化するために財政、金融、構造政策を用いる」といった、G20等での国際的な合意が共同宣言に盛り込まれた。日米首脳会談の前には、トランプ大統領が緩和的な金融政策を問題視するかのような発言を行っていたが、会談では大事には至らなかった。

 もちろん、日本にとって今回の首脳会談は、トランプ大統領との長いつきあいの入り口に過ぎない。選挙戦当時からのトランプ大統領の言動を考えれば、今後の交渉において、厳しい対日要求が出てくる可能性は否定できない。それでなくても、米国の自動車業界や畜産業界などは、この機会を利用して、トランプ政権に日本から譲歩を引き出させようとするだろう。

 トランプ大統領が置かれた状況を考えると、今回の首脳会談の機会において、日本を厳しく攻めたてることに利点を見出せなかったとしても不思議ではない。発足から1ヵ月を迎えようとするトランプ政権は、移民・難民の入国禁止を巡る法廷闘争など、他にも難題を抱えている。日米首脳会談の直前に、トランプ大統領が中国に対して「1つの中国」政策を尊重すると伝えるなど、日米関係に限らず、トランプ政権の外交政策は、穏健化の兆しをみせていた。

 また、首脳会談の時点では、財務長官や商務長官、USTR(米通商代表)など、対日交渉に携わるであろう主要な閣僚が、議会の承認を終えていなかった。良くも悪くも、トランプ政権にとって、日米関係は数多(あまた)ある政策課題の1つに過ぎない。手ごまが揃わないなかで、日米摩擦にまで戦線を拡大することが得策だったとは思えない。

 見守るべきなのは、政権の陣容が整った後の実際の対日交渉だ。外交面では、一時は日本とのパイプ役ともいわれたマイケル・フリン大統領補佐官が、就任前のロシアとの接触を問題視され、辞任に追い込まれた。ウィルバー・ロス商務長官や、国家通商会議を指揮するピーター・ナヴァロ氏などは、貿易不均衡を問題視する傾向が強いと言われる。

 その一方で、米国の主要メディアは、トランプ政権の経済政策の策定において、ゲーリー・コーン経済担当補佐官が存在感を増していると報じている。ゴールドマン・サックス出身のコーン氏には、バランスのとれた政策立案への貢献が期待されるが、為替問題ではドル高への懸念をトランプ大統領に進言しているとも伝えられる。ようやく議会承認を得たスティーブン・ムニューチン財務長官と共に、その動静に気をつける必要がある。
「米国第一主義」を頭ごなしに否定するのは生産的ではない

 もっとも、トランプ政権を闇雲に警戒するのは生産的ではない。問題視されがちな「米国第一主義」だが、自国の国益を第一に考えること自体は、どこの国にも共通した原則であるはずだ。自国の産業を保護する意図が日本側にも存在することは、日米FTA(自由貿易協定)を忌避する日本の姿勢からも明らかである。新たに開始される二国間対話の枠組みでは、両国が自国の国益を第一に考える立ち場を共有したうえで、互いにプラスとなる結果を目指すべきだろう。

 雑駁な自由貿易礼賛論は危うい。建前では自由貿易を謳いながら、実際には個別の産業を守ろうとする言行不一致を、トランプ大統領は突いてくる。そもそも、トランプ大統領が誕生した背景には、グローバリズムへの庶民の憤りがある。「得をするのは政治との結びつきが強い産業だけ」という庶民の不満は、行き過ぎた保護主義に発展しかねない。

 グローバリズムに懸念を持つ庶民の存在を軽視するようでは、自由貿易の先行きはおぼつかない。何が国益であり、何がそうではないのか。どのような保護主義が問題なのか。丁寧な議論が必要だ。

 トランプ大統領の「米国第一主義」の問題は、自国の国益を優先するということよりも、「米国は再び勝ち始める」という一般教書演説の一節にあるように、ゼロサム的な色彩が強い点にある。グローバルなサプライチェーンの広がりに見られるように、今日の世界経済は強く結びついている。他国を打ち負かすことが、そのまま自国の勝利につながるような関係ではない。ローレンス・サマーズ元財務長官は、「責任あるナショナリズム」を提唱する。自国の利益を第一に考えながらも、互いにプラスとなるような関係を目指す姿勢が求められる。

 日本が避けるべきなのは、過去の日米貿易摩擦の記憶に囚われるあまり、日米二国間の通商関係に必要以上に執心することだ。トランプ政権との関係は、より幅広い視点で捉えなければならない。2つの点が指摘できる。



通商・為替政策だけでは見誤るトランプ政権の経済政策は全体像が重要

 第一に、通商・為替政策に限らず、トランプ政権の経済政策の全体像を把握する必要がある。日本や日本の企業に影響を与えるトランプ政権の経済政策は、通商政策や為替政策に止まらない。対日通商政策や為替政策のみに注目しているようでは、トランプ政権がもたらすインパクトを読み損なう。

 リスクが高い政策が、移民政策である。法廷闘争に発展している移民・難民の入国禁止にかかわる大統領令は、直接、日本からの移民を対象にしているわけではない。しかし、今後、入国が難しくなる移民の範囲が拡大すれば、米国で日本企業が雇用を行う際の障害になりかねない。たとえ対象となる移民を雇用するつもりがなかったとしても、労働市場が逼迫すれば、それだけで米国で雇用を行う際のコストは上昇する。

 気がかりなのは、トランプ政権が外国人の就労ビザに関する改革を検討している点である。その内容次第では、日本企業が米国に社員を派遣しようとしている場合に、就労ビザが取り難くなる可能性がある。

 減税やインフラ投資の促進など、国内経済強化に向けた政策は、日本にとってもチャンスになり得る。トランプ大統領が主張してきたような法人税率の引き下げが実現すれば、米国で活動する日本企業も恩恵が得られる。インフラ投資が活発化すれば、日本企業にも参入機会が広がるかもしれない。

 もっとも、国内経済強化に向けた政策のなかにも、日本にとっての懸念材料はある。税制改革では、輸入に対する課税を強化し、他方で輸出を優遇するような税制の導入が取り沙汰されている。インフラ投資でも、外資系企業を排除するような「バイ・アメリカン」の性格が強まれば、日本が得られるメリットは少なくなりかねない。

 何より重要なのは、トランプ大統領が米国経済の運営に成功するかどうかだ。米国景気が失速すれば、日本経済には困った展開になる。好きか嫌いかにかかわらず、日本はトランプ大統領に成功してもらわなければ都合が悪いのが現実である。

 トランプ政権は、近日中に税制改革案を発表する予定である。取りまとめを担当しているのは、前述のコーン補佐官である。議会での立法作業に向け、いよいよトランプ政権の経済政策が本格的に動き出しそうだ。




他国の不利益は巡り巡って日本の不利益にグローバルな視点を忘れてはいけない

 第二に必要なのは、グローバルな視点である。グローバルな経済の結びつきが強い現在では、日米二国間の経済関係が良好だからと言って、それで安心するわけにはいかない。好例が米国とメキシコの関係である。トランプ大統領は、米国、カナダ、メキシコの自由貿易協定であるNAFTA(北米自由貿易協定)の見直しを掲げ、メキシコからの輸入に対する税金の引き上げを示唆している。

 NAFTAを利用しているのは、参加している3ヵ国だけではない。日本企業も、メキシコで製造した製品を、米国向けに輸出している。NAFTAの使い勝手が悪くなれば、日本企業にも大きな影響が及ぶ。

 メキシコだけではない。中国との関係も同様だ。米国と中国の関係が悪化すれば、中国を通じて米国とビジネスを行っている日本企業も影響を受ける。両国間で保護主義の報復合戦が勃発するような事態となれば、サプライチェーンが混乱し、世界の貿易が収縮する展開にもなりかねない。日本がトランプ大統領の標的から外れたと喜ぶのは早計である。

 二国間交渉を重視するトランプ大統領の姿勢は、日本企業にとって難しい環境を作り出しそうだ。日本と米国の直接の関係であれば、日本企業は日本政府を通じて米国との交渉に意向を反映させることができる。しかし、例えばメキシコと米国の関係が悪化した場合には、現地の日本企業が取り得る手段は限られる。

 日本にとっては、米国をアジアやグローバルな舞台に繋ぎとめる努力が国益となる。今回の日米首脳会談に関しては、トランプ大統領にすり寄る「朝貢外交」といった冷ややかな声が聞かれる。しかし、トランプ大統領に近づけるからこそ、果たせる役割があるはずだ。日米二国間の「蜜月」に甘えることなく、アジア地域やグローバルな視点に米国を引き寄せていくことこそが、これからの日本が果たさなければならない責任である。

(安井明彦・みずほ総研 欧米調査部長)



日本がトランプ政権でも「重宝」されるワケ 安定している日本は世界で希有な存在だ

米国でドナルド・トランプ政権が発足してから、20日で1カ月が経つ。トランプ大統領はこれまでに、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)から離脱するなど、日本やアジアにおける米政権の戦略転換を図る可能性をにおわせている。こうしたなか、米スタンフォード大学のショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)の研究者8人が、トランプ政権に対するアジア戦略提案をまとめた。今回はその中から、対日政策について紹介する。

アジアにおける米国の最も貴重な同盟国

 トランプ政権は、日本と米国の国益に効果的に貢献している密接な協力関係の観点から、日米同盟を続ける考えだ。現時点で日本は、世界ではないにしろアジアにおける米国の最も貴重な同盟国である。「世界的な役者」としての日本、そして日米同盟の重要性は、米国が考える世界秩序に挑戦しようとする中国の台頭とともに発展してきた。

 安全保障分野では、日本は世界的にも、地域的にもより大きな役割を果たすと同時に、平和を保つため、核拡散、テロ、海上安全保障において米国に重要な支援を行っている。日本軍は現在、スーダンの平和維持活動、インドからオーストラリアへの海軍共同戦闘に参加しているほか、フィリピンやベトナムなどに軍事装備や訓練援助を提供している。また、韓国と米国との3国間の安保協力に加わり、北朝鮮のミサイルや核実験に対応したミサイル防衛の準備を行ったり、米国との共同緊急事態計画と運航協力を強化したりしている。中国の南シナ海における活動に関しても、米国への協力姿勢を示している。

 日本の役割が大きくなったのは、安倍晋三首相が集団的自衛権を行使できるように憲法を「再解釈」したことがある。これにより、防衛費の引き上げを含めて行使に関する立法が可能になったのだ。


 












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